ACT.5 エディーネ
最初の攻撃でファーレンのミスト部隊のほとんどが壊滅した今となっては、イーラ世界は彼らに蹂躪される所をただ見ていることしかできなかった。
それは三王都の一つ、エディーネでも・・・。
「ステア!逃げるぞ!」
「で、でもアニキ、お母ちゃんが・・・。」
「大丈夫、ちゃんと安全な場所に避難させてある!」
盗賊を生業としているザート・スターム、ステア・スターム兄妹は、この混乱に乗じて金品を盗みまくっていた。そんなちまちましていたら、もちろんM.Gに見つかるわけで・・・。
「もう、アニキがグズグズしてるからこんな奴に追っ掛け回されちゃうんだよーっ!」
「うっさいなー、やっつければいいんだろ。」
「え?」
ザートは逃げながらも、懐にあったものを取り出す。
「あああ、それって・・・。」
「くらいやがれっ!」
ザートがもっているものから、眩しい光が放たれ、同時にM.Gが爆音を伴って破壊された。
「なんでアニキが”ドワーフの銃”なんてもってるのよっ!あれは確か、サングリア山の火口に埋葬したハズでしょ!?」
「いいじゃないか。おかげであの機械を倒せたんだから・・・。」
「よくないっ!」
「戻ってきたんだよ・・・。」
「戻って?」
「わからねぇけどな。何かこいつには意思があるような気がする。それに何か共鳴しているようなんだ。近くに仲間がいるような・・・。」
ACT.6 ヒューズ・メタル
「あなた、見かけない種族ね。名前はなんて言うの?」
瓦礫の街をとぼとぼと歩いていた少年に、一人の女性がそう声をかける。
「ヒューズ・メタル・・・。仇を探しているんだ。僕の街を滅ぼした男、アイロス・シュナイダーを・・・。」
「まぁ、狙う相手が大きいわね。でもね、その手に持っているドワーフの銃だけじゃ荷が重くなくて?」
「ドワーフの銃?この”街消滅し(まちけし)”のこと?これは僕の父さんの形見なんだ。」
ヒューズはそう言って彼女に銃を見せる。
「形見って・・・そうか、ヒューズ君はドワーフなのね。」
女性はひとり納得したようにポンと手を叩く。
「ドワーフ?」
「こっちの話し。それよりアイロスを倒すんでしょ?私が少しだけ手助けをしてあげるわ。」
彼女はヒューズの手を強引に握って、街の奥の地下に誘う。
「これは・・・M.G?」
「あなたの世界ではこれをそう呼ぶの?イーラではね、これをミストと言うのよ。」
二人の目の前には、美しい翼を持った、天使のようなミストが静かに佇んでいた。
「まるで天使のようだ・・・。」
「そう。少し前にね、セラの天使(セラ・エンジェル)というミストがあったの。それはその化身(アバター)。名前をセラのアバターというわ。」
「セラ・アバター・・・。ありがとう。使わせてもらうよ!」
ヒューズはその女性にお礼を言い、セラ・アバターを起動させ、戦乱の空へと舞い上がっていった。
「私は・・・まだあなたの所へは行けなかった。でも、その分あなたの意思を継ぐつもりよ。だからちょっと待ってて、アズ・・・。」
小さくなっていくセラ・アバターを見上げながら、その銀髪の女性はそう呟いた。
ACT.7 ダナリア
三王都のひとつ、ダナリアの王宮の周りは、多数のM.Gによって包囲されていた。
「ヂル、お願い、トリーを連れてこの王宮から脱出して!」
「しかしアーリス、俺はアーリスの親衛隊だ。君を守るのが俺の役目・・・。」
「これは王女である私の命令です。妹のトリーにこれ以上酷い光景は見せたくありません。」
「わかった・・・。しかしアーリス、絶対君を助けに戻るから!」
「ありがとう・・・ヂル。」
ダナリアの若き王女、アリシエル・ガリア(アーリス)の親衛隊長、ヂルコニアス・レェテの力強い言葉に、アーリスは笑顔で答えた。
彼が退出したすぐあとに、再びアーリスが鎮座する玉座への扉が開く。
「なかなか素晴らしい守護神をお持ちですな・・・。」
金髪碧眼の男が数人の部下とともにアーリスの元へやってくる。アイロス・シュナイダーその人である。
「レイを・・・大天使レイディアントを退けたのですね・・・。」
レイはダナリアを守護する天使である。強大な力を持つが、以前アーリスの友人に封印されていた事もある。魔導を究めたアイロスであれば、その天使さえ封印にそれほど時間はかからなかったのであろう。
「ここは私の国です。何人にも侵されるわけにはいきません!」
「わかっています。私とて無駄な争いは回避したい。
それに先代ダナリア王と私の父、ロンドヴァルド王とは親しい関係でした。その御令嬢に手荒な真似などしたくはありません。ただ・・・。」
アイロスはそっと彼女の肩に手をかける。震えているのがわかった。
「あなたには人質となってもらいます。あなたがいればダナリアの人々は安易に手は出せませんから。もちろん断れば・・・。」
「わかりました。民を守るのが私の務め。貴方の提案に従いましょう・・・。」
こうして美しきダナリアの王女は、幽閉されることとなった・・・。
ACT.8 ウィンター・フォール
「このぉっ、全然出力が上がらないじゃないか!」
飛行中のセラ・アバターが偵察中のM.Gに襲われたのは、あの女性と別れてからすぐのことだった。
M.Gの名前は「式神参式」とその上位機種「式神弐式」。両方ともコモンクラスの量産機である。
だがセラ・アバターは苦戦していた。スピードもパワーも上がらないのである。弐式の光弾の直撃を受け、アバターは撃墜される。
「ねぇ、大丈夫?」
気を失ったヒューズを起こしたのは、金の髪をした女性のような青年だった。
「あ・・・大丈夫です・・・。セラ・・・セラ・アバターは!?」
ふとヒューズはさっきまでの戦闘を思い出し、周りを見渡す。
「そんな、直撃を食らったはずなのに・・・。」
彼の目の前に立っているミストは、まるで何ともなかったように無傷だった。
「私が直してあげたのよ。しかも機体の性能に対して余りにもマナ・エンジン(簡易魔力炉)が貧弱しすぎたからスラン・タービンを接続してボアアップしてあるわ。セラ・エンジェルと同等のマナ・エンジンよ。」
「あ、ありがとうございます。あなたは整備士なのですか?」
「そう。ミストマイスターと呼んでよね。名前はウインター・アゲ・・・。」
「ウィンター?」
「じゃなくてウィンター・フォールってとこね。あのウィンター・アゲインの愛弟子ってこと。」
「はぁ・・・。」
ヒューズはよくわからなかったが、とりあえず彼にお礼を言って、機体を再び空に上げた。
「ふふっ、今回のは前回と違って人間が始めた戦争。姉さんの影響も少ないようだし、私もゆっくり楽しめそうだわ・・・。」
ウィンターは薄笑いを浮かべて、ヒューズを見送っていた。
ACT.9 フロス島
「やはり奴らヒューム山を狙ってきたか・・・。」
ガイトラッシュ・レイヴンは飛んでくるM.Gの大軍に、ぎゅっと拳を握りしめる。
ファーレンのミスト部隊が壊滅した今、彼らの狙う場所は一つ、ヒューム島とフロス島しかなかった。
なぜならこの二つの島は、前回の戦いで使われたミストが多数封印されているからである。
「ガイさん!」
後ろから一人の女性が走ってくる。
「どうしました?ミラ・カタロニア?」
「副神官長、チョー・マノ様からミスト封印解除の許可を頂きました。これから封印を解除します。」
「ああ、頼む。奴らが本格的に攻撃を開始する前に。」
「はい!」
そんな中、ガイの視線の端に見覚えのあるミストが一瞬映る。慌てて空を見上げる彼は、驚きの声を上げる。
「あれは!セラ・エンジェルじゃないか!?天帝ローク様が着装した伝説のミスト・・・。では、乗っているのはローク様なのか?しかしあのミストは前の戦いで海に沈んだはず・・・。」
彼の頭は混乱していた。そしてそれは敵もそうであった。
前回の戦いからアイロスに従っていた元黒薔薇騎士団の騎士は、あのミストにひどくうろたえた。
「くっ、セラが抵抗のシンボルなどという伝説はこの私が打ち砕いてやる!」
彼はM.Gを加速させ、セラ・アバターへと突っ込んでいった。
「ヒューズ、前方からM.Gが来るよっ!」
セラ・アバターのアーテイ(ミストを制御する人造人間)アバターが彼にそう警告する。
「なんなの!?僕はこの島にくれば仲間がいるからそれに合流するようにってあの女の人に言われたのに、何で戦わなくちゃいけないのよ?」
そう言いながらも、ヒューズは両腕に長い砲身を抱える。
「ちょ、ちょっと、ここでダブルマジックランチャーを使うつもり?」
アバターは驚きながらもマナの充填に作業を切り換える。
「帝国という体制に反逆しているのは我々だ!本当のセラなら我々と一緒に戦ってくれるはず・・・。」
M.Gは剣を抜き、切りかかってきた。
「我々の前に立ちはだかる名前ではない!セラぁぁぁっっ!」
「先手必勝ぉぉぉっっっ!!」
二つの砲頭から閃光が放たれる。ダブルマジックランチャー。ハイマジックランチャーを二つ、同時に発射したのである。
切りかかってきたM.Gはもちろん、周りにいたM.Gさえも巻き込んで、大爆発が起きる。
何とか生き残ったM.G達も、今の一撃で戦意を消失し、一旦フロス島から退却したのである。
「何なんだ・・・あのめちゃくちゃなミストは・・・。少なくとも敵ではなさそうだが・・・。」
ガイ達は期待に不安を混じらせながらも、そのミストを迎えたのであった。
ACT.10 再び王宮にて
「こら、勝手に入ってくるのではない!」
番兵の一人が槍でもって一人の女性の進路を塞ぐ。
「私の顔を忘れたのですか?たった五年しか経っていないというのに。」
「あっ!あなた様は・・・!?」
ギィっとミカエルの部屋の扉が開く。
「ミカエル!何ですかこの体たらくは!」
「あ・・・姉上!なぜここに・・・?」
ミカエルは余りの突然の来客に、二の句が告げられなかった。
リンネ・ファナルキア。ミカエルの双子の姉であるが、五年前妖魔の男と恋に堕ち、駆け落ち同然で姿を消した女性である。
「そんなことよりも、今は敵を迎撃することが先決です。急いで残存の部隊をピウムに集結させるのです。」
「あ、はいっ!」
ミカエルは余りの気迫にただ従うしかなかった。
ACT.11 ピウム
奇岩都市ピウム。ファーレンの南に位置する島にある都市の名前である。
ファーレンの周りにはセレン内海という海があるため、いくらM.Gでも安易には責められない、難攻不落の天然の要塞となっている。
しかしこのピウムを奪われることはすなわち、敵に皇都侵攻への足掛かりを与えてしまうことになるのだ(日本でいう硫黄島みたいなもの)。
ここにファーレンミスト部隊の残存艦隊、そしてフロス島からの援軍などが続々と集結しつつあった。
「いいか、このピウムが突破されたらファーレンまでは目と鼻の先。もし皇都が堕されればこの世界は終わりだ。絶対守りきるぞ!」
ピウムの総督フォリントはそうみんなに号令する。
すぐに「おおーっ!」という大勢の声が返ってきた。
「あなた、でも無理はしないでね。」
フォリントの妻、ファファ・カーサイスが心配そうに彼のもとに来る。
「大丈夫。俺たちは死にに行くんじゃない。生きるために戦うんだ!」
そう言って抱き合う二人を、偵察隊の伝令の声が邪魔をする。
「敵の機影多数、ピウムに向かって来ます!」
「よし、迎撃開始!!」
再び新たなる伝説が、始まろうとしていた・・・。