あれから・・・あの戦いから五年の月日が流れた。
イーラ大陸は再び平和を取り戻し、人々はこの平穏が永久に続くことを願っていた。
しかし、平和は打ち砕かれる・・・。
ACT.1 城内にて・・・。
だが迫り来る悪意の襲来に、気づく者もまたいた。
「どうした、アルルマータ?」
ファーレン城内の玉座で、ミカエルは前にかしづくうら若き女性にそう問うた。
皇都ファーレン。イーラ大陸最大の軍事力を持つ大帝国である。そしてミカエルはこの帝国の皇太子であり、執政官でもあるのだ。長く美しい黒髪が印象的な青年でもある。
「・・・夢を見ました。」
アルルマータと呼ばれた女性は無機質に言葉を返す。彼女は現在、29歳の若さで宮廷魔術士の長を努めているのである。
そして彼女には生まれついて、人とは違う能力を持っていた。
それが予知夢である。
「天空から多くの悪魔が降臨してきます・・・。」
「天空から・・・?アライアンスのことか!?」
アライアンスとは五年前、イーラに落下しようとした隕石の名前だ。
「違います。アライアンスは結果的にイーラをアイスエイジにしようとしましたが、邪悪の意識はなかったはずです。しかし・・・今日見た夢の悪魔たちは、明らかに侵略の意思を感じ取れました。それも巨大で、大多数の意思です。」
「わかった。ミスト隊をいつでも出せるように、これから第一種警戒態勢を維持しておこう。」
「お願いいたします。」
彼女は顔をうつむけた態勢のまま、ミカエルの前を退出した。
ACT.2 ある街にて・・・。
そしてその夢は、数日と経たないうちに現実となる。
「ん?何だ・・・。」
街を歩いていた男はふと空を見上げ、そうつぶやいた。その声を聞き、周りの人達もつられて空を見上げる。
彼らの目には、真っ青な空を覆うような多数の黒い点々が写っていた。
それはだんだんと大きくなり、地上に降りた時にはもう、人よりもふたまわりは大きいものであった。
人々はここにきて、初めてこの地上に降りた物体を確認することができたのである。
それは、巨大な鉄の機械人形・・・そうとしか見えなかった。
冷たい鉄の体に剥き出しの配線、角張った装甲がその人形の無骨さを際立たせていた。
ミストの甲冑を思い起こさせる流線型の美しいラインとは対照的な力強い姿だった。
−ヴァシュン!!−
その人形は突然光を放つ。その光は近くのレンガ造りの建物を、木っ端みじんに粉砕した。
人形が最初にした動作行動は、破壊活動だったのである。
「キャー!」
「にっ、逃げろーっ!!」
人々はその化け物に驚き、恐れ、逃げまどう。
その街が制圧されるのに、さしたる時間はかからなかった。
ACT.3 迎撃行動
「よし、ティンガー小隊、シヴ小隊は両サイドからあのミストもどきを挟み込め!ヘルカイト小隊は一気に正面ぶつかるぞ!」
「ティンガー隊、了解!」
「シヴ隊、了解!」
「ヘルカイト隊、了解!」
もちろん謎の機甲部隊の襲撃に、ファーレン軍がただ見ているはずがなかった。第一、この時のために第一種警戒態勢をとっていたのだ。
イーラ最大のミスト保有数を誇る彼らが、運用できうる範囲のミストを迎撃に出撃させたのだ。
目標は敵の母艦と思われる巨大な空中戦艦。
−バシュ!バシュ!バシュ!−
つるべ撃ちににミストガンが火を吹く。その十字砲火にも関わらず、鉄の人形達は剣を抜いて向かってくる。
「なっ、早いっ!」
その人形は一撃で一体のミストを葬り去り、返す刀でもう一体を撃破した。
「つ、強すぎる!」
確かに腕の違いもあった。しかし一対一での性能の差が、格段に違っていたのだ。
「隊長!あ、あれを見てください!」
一人の隊員が敵の母艦を指さす。そこから今までのより巨大な鉄の人形が現れたのだ。
だが今までの他の人形とは違う。どちらかというとミストに近い。
「親玉の登場というわけだな・・・。」
「フッ・・・ファーレンの犬どもが・・・。」
「なっ!その声は・・・。」
隊員の一人は自分の耳を疑った。正体不明の敵は、イーラの言葉を話したのである。
そしてその隊員は、五年前のフロス島での戦いでも従軍していた。その彼にとってこの声は、忘れようとしても忘れることはできなかったのである。
「こ、この声はアイロス!アイロス・シュナイダー!!」
「待ちに待った時が来たのだ。多くの英霊が無駄死にでなかったことの証であるために・・・。」
アイロスの機体から巨大なバズーカが取り出される。それは機体の右肩に接続された。
「帝国の圧政と暴挙を粛清するために!再び祖国の復興のために!」
バズーカにエネルギーが凝縮されていくのがわかる。
「イーラよ!私は還ってきた!!」
バズーカから禍々しい光が放出された。
−アトミックバズーカ−
激しい熱と爆風がファーレン軍を襲う。
イーラ大陸で初めて、人は核の衝撃を体験したのであった。
ファーレンのミスト部隊は、こうして壊滅する・・・。
ACT.4 アイロス・シュナイダー
この名前を、五年前のフロス島での戦いに参加したものならば、知らないものはいないだろう。
祖国の復興と帝国への復讐のため魔王グラキアと契約を交わした彼は、ファーレンの国教でもある神聖ローク教団の神官長を操り、戦争を起こさせると同時に、巨大な隕石「アライアンス」をイーラに落とし、地上をアイスエイジ(氷河期)にさせようとした張本人なのだ。
五年前の戦いで、宇宙に散ったと思われていたが・・・。
「私の使命はまだ終わっていない。ファーレンを、イーラを滅ぼすまでは・・・。」
アイロスは自分の機体『フォル・マーログ』の中でフッと息をつく。
五年ぶりのイーラ大陸である。懐かしい・・・と思うよりも、憎悪が先にこみ上げてくる。
五年前、宇宙を漂うアイロスを助けたのはグラキアであった。
彼女は、今回の作戦が失敗したとはいえ、たった一人の男がここまでイーラを震撼させたことを評価し、もう一度チャンスを与えたのであった。
しかしイーラへ彼を戻すことを得策でないと考えた彼女は、イーラ大陸の南に位置するもう一つの大陸「フィネンス」へ、彼と少数の彼の部下達を移したのであった。
未知の大陸フィネンス。イーラの人々からはそう呼ばれている。または機甲大陸の別称もある。
なぜなら、かの大陸から流れ着くものは、イーラの世界にはない、鉄でできた複雑な機械ばかりであったからだ。
人々はこの大陸にひどく興味を持った。しかし行きたいとは思うものの、それは無理な相談なのだ。なぜならイーラとフィネンスの間には壮大な雲壁が渦巻いており、何人たりとも渡れるものはいなかったのである。
こうして二大陸はお互いの交流もなく、独自の文明を築いていくこととなる。
まったく右も左もわからない大陸で、アイロス達は苦難の道を歩いた。
見慣れぬ人種、鉄でできた都市、そして魔法とは違う「科学」という概念・・・。
すべてが初めて体験することであった。しかしそれらは彼にとって驚きではあったが、決して相いれぬものではなかった。逆に彼の野心を増幅させるのに十分なファクターだったのである。
アイロス達はある国の有力領主と接触をとった。
珍しいものが大好きなこの領主は、夢物語でしかしらない世界からきたこの客人を大層もてなしたのである。もちろん珍しいだけでこんな歓迎はしない。領主が求めていたのはその見返りなのだ。
そんな下心は、アイロスには十二分にわかっていた。そのために彼はこの領主に接触したのだから。
アイロスはその領主に惜しげもなくイーラ独自の文明「魔法」と「ミスト」、そしてマナ(小さき精霊)の概念を教えた。
特にマナ原理(この世界は小さき精霊によって形成されているという概念)は、全ての物質が全て原子と電子でつくられていると教えられていた領主にとって、かなり新鮮に映ったのである。
新しい技術、新しい発見が、いち早く軍事利用に使われるのは世の常である。
領主は野心的な人物でもあったから、直ぐさまミストの魔法技術と、フィネンス独自の科学技術(特にコンピューターと呼ばれる制御装置)の融合にとり掛かった。そして、アイロスもそれを望んでいたのだ。
そして完成したのが「メタル・ギミック(M.G)」と呼ばれるものであった。
その性能は完成した最初のテスト機ですら、A級ミストをはるかに上回っていたのだから、領主はすぐに量産を開始した。
そして遂に、その領主によるフィネンス制圧作戦が開始されたのである。
M.Gの性能は圧倒的で、当時のフィネンスに対抗できる兵器はほとんど皆無だった。
電撃的な侵攻によって多くの都市が占領され、多くの街が消滅した。
しかし、一国の経済力でフィネンス全土を敵に回すことはかなり厳しく、圧倒的な物量の前に、戦線は膠着状態を迎えたのだ。
「そろそろ潮時だな・・・。」
十分なM.Gの量産を確認したアイロスは、その領主を、殺した。
その後の彼の対応は早かった。直ぐさま兵を占領地区から引き上げさせ、各国に特使を送り、停戦の講和会議をとりつけたのだ。
各国から出されるある程度不平等な条件も、出来る限り譲歩して受け入れ、領土も返還した。兵士達も延々と続く戦争に嫌気がさしていたから、この停戦は好意をもって受け入れられた。
アイロスにとって、フィネンスでの覇権などどうでもよいことだったのだ。彼はただ、M.Gの量産だけが目的であったのだ。そのためだけに戦争を起こさせたのである。
そしてアイロスがフィネンスに流れ着いてから五年後・・・。
遂に野望が成就しようとしていた。ミストを上回る性能を持つM.Gを持って、イーラへと帰還するのである。
しかし、普通に海を渡ろうとすれば雲壁にはね返されるだけだ。そのため、彼は前々から考えていたことがあった。
それは天帝ロークでさえ手の出せない世界、宇宙からの侵攻である。
彼は五年の歳月をかけ、大気圏突破、突入性能を持つ巨大戦艦「イレイザー」を完成させた。そして彼はイーラの頃からの部下達や、彼を慕って集まった同士たちと共に、宇宙へと上がっていったのであった。
そしてこの戦争が始まる・・・。